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なんでキレ散らかしたんだっけ?ショックではあるけど、キレる理由がない。
あぁ、そうだ。きっとストレスが溜まっていたんだな。
ハロウィンも番長のバイトと重なりスルーした。
あと残るイベントなんてクリスマスだけなのに、それもダメなんて凹むしかない。
「…ばんちょー、ごめんね。我慢する…バイト頑張って…」
「……そう言われるとなぁ」
「番長ママが頑張ってるんだし、ばんちょーも頑張んなきゃいけないんだよね…」
「はぁ?」
なんだそりゃ、と顔をゆがめる番長。なんだそりゃもなんもない。俺が我慢すればいいだけのこと。
「…別に金には困ってねぇよ。家に入れるつもりねぇし、母親もそんなことしたらキレるし。欲しいものがあっただけだ」
「……え」
「そんな親孝行にもなんねぇ中途半端な金稼ぎ誰がするか。母親は、就職後にしっかり恩返ししてやるよ」
「………」
かっこいいこと言ってるけど、そうじゃない。
今はバイト理由だ。
「…欲しいもの?」
「おう」
「……」
何って言わないから、たぶん聞いても教えてくれないんだろう。夏休み終わりからしていたバイトがまさかそんな家計の困窮が理由じゃないなんて。言われてみれば確かに番長ママはそんなことしたら怒りそう。
欲しいものってなんだろう。
それは、いつ買うやつなんだろう。
「それは…」
「あ?教えねぇぞ?」
知ってっし、ばか。
そうじゃなくて。
隣に座る番長の腕をがしりと掴み、横目で覗くように顔を見る。欲しいものの話してると、なんだか嬉しそうだから余程欲しいんだろう。
それはわかった。
分かったけど、納得はしない。
「その欲しいものは、俺と一緒にいることより大事なんですか…」
「………」
結局、最後まで顔を見続けることはできなかった。
そうだ、なんて言われないの分かってる。分かってるけど、欲しいものが何かわからないうちはそんな自信持てない。
大事にされていることは分かっている。
俺の好きという気持ちが一方通行じゃないことも知っている。
でも天秤にかけるもんでもないし、これは、ズルい質問だ。
「…そんなわけねぇだろ」
怒ったような言い方じゃなかった。
呆れたような言い方でもなかった。
「そんなもん、あってたまるか」
番長の腕を掴んでいた手を上から握られる。気温は低く、寒いと言うのにその手はとても暖かった。
「…誰に言ってんの?」
まるで、独り言のような声音に再び顔をあげる。真顔の番長はなにかを考えるように空を見つめていた。
「…自分に。なんか腑に落ちた」
「ん?」
「クリスマス、なにやるかなぁ…」
「えっ!?」
もしかして考え直してくれたんですか!?と食い入るようにその顔に近づくと、掌で顔面離された。
「ちけぇよ」
クリスマス、考えとけよ。なんて言うから、気分は急上昇。
寒さなんて関係ない。
ウキウキで番長にやりたいこと、いっぱい提案した。相変わらず、番長からの提案はなかったけれど、それでも1個ずつうんうんと聞いてくれる番長に、俺はもう項垂れることはなかった。
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