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今年はクリスマスが土曜日なので、街の賑わいは予想以上のものだった。
駅前に設置された見上げるほど大きなツリー。それに比例してオーナメントも大きく、バランスよく埋め込まれている電飾がピカピカと光っている。
そこらへんの植木の中にも電飾があったから、夜になれば素敵なイルミネーションとなるんだろう。
各店もクリスマスに合わせた限定ものを売っている。クリスマスバーゲンとでかでか書かれたポップもしっかりクリスマスカラー。
ツリー前で待ち合わせしているカップルも多かった。
また単身狙ってナンパしている輩もちらほら見かけた。わざと玉砕覚悟でそこを拠点としているのか、はたまたデートじゃない女の子2人組とのダブルデートを狙っているのか。
どちらにしても難しそうだけど。
こんなとこで誰かを待っている雰囲気を出していたら、そりゃ用事があるに決まっているし、ナンパにのるなんてことはまずない。
ないのだよ、女性諸君。
「誰かと待ち合わせですか?」
「時間あるならそこでお茶しませんか?私も待ち合わせまでちょっと時間あるんでぇ」
「連絡先教えてください!」
「…いえ、すみません…無理っす…」
数人に群がられている番長を、遠くの物陰からこっそりみる。
現在待ち合わせ時間よりまだ10分早い。
何分前からいるんだ番長。
そしてなんだその格好は番長。
超気合い入ってるじゃないか番長。
遠目に見てもオーラがちげぇよ番長。
カシャシャシャシャ…。
群がりはしないが、周りにいる女の子が数人隠し撮りしていたので、俺も便乗して写真を撮った。
女の子たちをウザそうに、ではなく困ったように応対している番長可愛すぎだろおい。
寒いのか、もう口をききませんよアピールなのか知らないがすっとマフラーで口元隠す仕草も可愛い。
早く来いとか思ってんだろーなー、とついニヨニヨしながら、番長の困った姿を眺めているが、実際にこれバレたらまじで怒られるやつ。
でもあの状態で俺行っても、女の子たちに男ふたりで遊ぶってバレちゃうから逆ナンに熱が入っちゃう。
どうするか。
どうにかなるか。
待ち合わせ五分前。
ある程度、遠目の番長を満喫した俺はようやく番長の待つツリー下へと赴く。
「おまたせ、チカ」
さすがにこの往来で、しかも女の子たちの前で番長はないだろうと慣れないあだ名呼び。本名呼びは、この女の子たちに名前バレんのも嫌だしやめた。
そう声をかけるも、番長は別段助かった!みたいな顔はしない。いつもどうりクールに澄ましている。さっきはあんな困り顔してたのに。そんなポーカーフェイスさえ可愛い。
「おせぇ、サキ」
「んー…、一応まだ五分前なんだけど。ごめんね?」
「行くぞ」
女の子を抜けて先を促すも、逃がしてたまるかと言わんばかりで追いかけすがりついてくる女の子たち。
てか君らも用事あってここにいるんちゃうんかい。彼氏とかと待ち合わせ違うんかい。
「2人で遊ぶんですか!?」
「私達もふたりなんですっ」
「ご一緒させてください!」
んん、番長の顔面強すぎ。
そして今日のコーディネート素敵すぎ。
女の子たちの気持ちも分かっちゃう。
女の子がひとり、俺の腕に腕を絡ませていた。わざとらしく胸まで押し付けられたけど、厚手のコートで感触よくわからん。
「すんません」
そんな俺の腕をグイッと引っ張り、番長に引き寄せられる。ほぼ無理やり、女の子から引き剥がされた。
「俺ら今からデートだから、邪魔しないで」
「……」
おわぁ。
肩を抱かれ、一度胸元に引き寄せられた。
そのまま女の子たちを一瞥した番長は、俺の肩に腕を回したまま、見蕩れて固まる集団を残して、足早にその場から離脱する。
引かれるままに歩く俺は何も一言も発していない。番長をあの集団から助けなきゃなーっていう気持ちで行ったのになんもできてない。
ただ番長の素敵スマイルが放たれただけ。
肩を掴んでいた手はするりと俺の右手を握り、番長はそのまま先を歩く。耳が赤いのを、俺は番長フリークとして見逃す訳もなかった。
「…デート、楽しみだねぇ?ばんちょー」
「……」
そんなことを言えば、照れた顔で睨まれて、面白がってんじゃねぇと目で訴えられて。
結局最後は可愛い番長に俺は手を繋ぎながらクスクスと笑うしかなかった。
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