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「ほらな」
言った通りだっただろ?となぜか呆れられる。
10分かそんくらい、番長に支えてもらいながら滑る練習してたら、ひとりでリンク1周できるようになった。
俺器用だなー。
「うん、なんか慣れてきた」
「最初の方が面白かったな」
「それはばんちょーだけでしょ」
もう爆笑もされない。
手を繋がなくても平気。
後ろ滑りは、ちょっとこわいからまだできないけど。
あとスピードのると止まれないから、壁に激突して強制ストップしかできないけど。
「ちょっと休憩するか」
いつの間にやらスケート場にきて1時間たっていたらしい。不思議と寒くはないが、番長に言われて休憩室を目指す。スケート靴のまま歩いてももう平気。
運動神経よくて、よかった。
休憩室は暖房が効いてて、厚着しているから少し暑いくらいだった。
番長が奢ってくれたミルクティを飲みながら、ベンチに座って一息つく。向かいには、ベンチの上で膝立ちをしながらガラス越しのスケートリンクを眺める子供がいた。アイス片手に暖房効いた部屋で氷を眺めるとはなかなか…。
「ばんちょーはスケートしたことあんだね」
「昔な。家族で来たことある」
「ふーん」
母親と、ではなく家族と。
触れちゃいけないような気がする。いまだ番長の家のことは深く聞いたことない。番長ママと面識あるくらいで、あとは母子家庭ということしか知らない。
「俺はわりと最初から滑れたけどな」
「自慢っすか」
「弟がお前みたいにプルプルしてたな」
「へぇ、お…」
弟ッ!?
サラッと聞き流してしまいそうなほど自然に出たワードに、驚愕する。
思わずびっくり眼で番長を凝視。それにも気づかず番長はその弟くんの話をしている。
見たこと無い。
てか、一緒には住んでないだろ。
親父さんの方にいったのか。
思いのほか辛そうでもなく、笑い話として話している姿を見て、俺もびっくり顔は引っ込めた。どうやら仲は良いらしい。
「…ねぇ」
「ん?」
「ばんちょー弟いるの、俺初耳」
「…そうだっけ」
「うん、すげぇビックリしちゃった」
「あー、話し出したことねぇか。まぁ、あんま会わねぇしな」
「写真ないの?」
「ねぇよ。兄弟で写真撮るか?普通」
「兄弟いないから分かんねぇっす」
残念、写真はないのか。
いやでも園崎家でかつ番長の弟とか絶対美少年だろ。
なんとなーく番長に似た美少年を想像しようとしても、思い浮かぶのは中学時代の番長である。今はイケメンおっとこまえだけど、あの頃は美少年寄りだった。
「会ってみたーい」
「…えぇ」
「嫌なんかーい」
なんでよ、と問えばなんか複雑そうな顔してる。ブラックコーヒー飲んだ時みたいな苦い表情。
どんな心境の顔だそれは。
「…お前俺の顔好きだもんなぁ」
「嫌いな人とかいんの?」
「いや、そりゃ知らんけどよ。俺の顔好きなら、時雨も好きな顔なんだろうよ」
「似てるんだ?」
うわー、それはぜひ見たい。
時雨くんていうのか。
番長似の美少年見たいー。絶対可愛がるー。
まぁ、でも。
「例え顔が似ててもばんちょー以上には好きにはなりませんけどねー」
勘違いしてもらっては困る。
顔が好きだから、番長のこと好きな訳では無い。もうすべてですよ、すべて。俺が番長の顔を好きだと、平然言ってのけられちゃうほど顔面愛は番長に伝わっているみたいですけど、それだけじゃないですよ。
「知ってる」
ふっ、と笑われ無造作に頭くしゃくしゃにされた。飲み終わった俺のカップをさりげなく奪うと、自身のものと一緒にゴミ箱へ捨てに行ってくれる。
こういうとこね。
まぁ、伝わっているならなにより。
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