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仕方ないので部屋の中を物色してみる。
落ちている本を拾って見ると、太宰治の『人間失格』だった。精神的ダメージを狙った小道具だろうか、とちょっと勘ぐりながらぱらぱらと捲り、元の場所に戻した。
今度は壁に目をやってみる。と、片隅に小さく何か書いてあるのを発見した。近付いてよく見てみる。おそらくは床に転がるマジックで書かれたのだろうその文字が伝えていたのは、
『前だけを見て走れ。決して振り向くな』
青い春が薫るメッセージだった。お仕置きで監禁された部屋の中、マジックを握り締め屈み込んでメッセージを書く高校生男子の背中を想像し、俺は思わず生温かく笑ってしまった。
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