裏庭のカナ

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 呟いて一度中に戻ろうと視線を動かしたところで、俺の動きが再度止まった。  ……縄梯子。  天窓から一~二歩の距離に、鬼の角のように突き出す二本の頑丈そうな鉄の棒に、これまた頑丈そうな金具で固定された頑丈そうな縄梯子が、大蛇のように寝そべっていたのだ。 「……サービス精神旺盛にも程があるぜ……」  まだ寮に入って数日だが、こんなものが「元の世界」の屋根にあるはずないってことは常識的に考えてわかる。じゃあどうして「こちらの世界」に縄梯子があるのかと訊かれてもわからないが……。  地上三階の高さから下を見ると、梯子はちゃんと地面まで続いている。 「……よーし、そっちがその気なら降りたろうじゃないの」  売られた喧嘩は選り好みするが誘われれば勢い良く乗る。たとえそれがこの上なく怪しいこんな状況でも。  梯子に足を乗せ、一段一段降りていく。俺の体重くらいではみしりとも言わないほど、縄梯子は見た目通り太くしっかりした作りだった。
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