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「は? いや俺は──」
突然飛び出した言葉に虚を衝かれながらも首を横に振ろうとする俺を、少女は言葉と行動で制した。
「遊びましょう?」
同じことを繰り返し要求しながら、俺の手を取って歩き出したのだ。少し低い手の平の温度が心地よかった。
「遊ぶって、何して?」
俺の疑問に、足は止めず顔だけで少女は振り返った。不思議な色の瞳を持った目が楽しそうに細められる。
「見て」
少女は俺から手を離し、両手を横に目一杯広げてみせた。
途端に強い風が吹いて思わず目を瞑った。そして次に目を開けた時辺りを取り囲んでいた風景の変化に、俺は瞠目した。
ついさっきまでただの草原だったはずの場所が、花で埋め尽くされていた。赤、ピンク、白、黄色、紫……色鮮やかな無数の花々が風に小さく揺れている。
「ね、キレイでしょう?」
少女は顔全体で嬉しさを表現するように笑って、もう一度言った。
「ね、私と遊びましょ?」
「……」
どうしてだろう、こんなにも異常なことばかり続いて思考が麻痺したんだろうか。得体の知れない少女の誘いに、俺は頷いていた。
「……あはっ」
満足そうに笑って身を翻し花畑の中を走っていく少女の背中に、俺は問い掛けていた。
「君、名前は?」
振り向いた少女の顔には、今までになかった悪戯っぽい笑みがあった。
「──カナ」
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