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この広い世界で、今は俺とお前だけ。
真冬の深夜2時
缶コーヒーを片手に、マルボロの煙を凍て付く様な夜の空気に向かって吐き出す。
夜明けまであと5時間。
あと5時間もすれば、配管屋やダクト屋のじっさま達が、俺のところに本日施工する部分の図面をよこせと押し寄せるだろう。
しかし、パソコンの画面に映し出される施工図には一切の寸法線が描かれていない。
漫画で言えば下絵は出来ているがペン入れが終わっておらず、台詞が一切入っていない状態だ。
途方に暮れながら頭を抱える、いっその事時間が止まってくれないかとさえ思えてくる。
だが、時間は残酷だ、どんな人間にも時は平等に流れている。
そんな大切な時間を、真夜中のベンチに座りながらタバコの煙をもてあそぶことによって無駄使いしている俺の目の前を、アイツは何事も無かったかのように通り過ぎていく。
少し痩せてはいるが、凛とした空気を纏いながらゆっくりと俺の前を一定の距離を置きながら通り過ぎていく。
この広い現場の敷地内で、今活動しているのは俺とアイツだけだろう。
疲れているのだろう、普段なら絶対に会話することなど無いアイツに、俺は語りかけていた。
「お前も・・・一人か・・・?」
闇夜のためか、まん丸で綺麗な瞳をしていたあいつは、こちらに少しだけ目線を送っただけで、何も言わずに夜の帳に消えていった。
ちぇ、冷たいな!
そんな独り言を呟きながら、一人きりでパソコンの前に戻る・・。
朝から怒鳴り込んでくる職人のじっさま達のために。
俺の一人きりの戦いが今始まる。
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