この広い世界で、今は俺とお前だけ。

3/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 冬の日差しが珍しく暖かい日。  幾ら働いても楽になりえず。  じっと手を見る。  そんな日に俺はアイツと出会った。  昼休み中、みんな昼寝してる中で仕事するのもなんだか気が引ける。  しかたなく外のベンチで食後の缶コーヒーを飲みながらタバコの煙を眺めていた時、事務所の入り口付近で何やら気配がする。  事務所の角から何事と覗き込むと、アイツがさっきみんなで食べていた仕出し弁当のガラ入れの前で立ち尽くしていた。  冬の寒空の下、痩せこけたアイツの姿はひどく小さく見えた。  だが、強い意志を持ったような鋭い瞳と、少し汚れているが真っ白な姿に俺は目を奪われていた。  あんなとこで何をしてるのだろう?  アイツは弁当ガラの周りをくるくる廻る、まるで何かを探しているように。  時に弁当の蓋を開けようしているがなかなかうまく行かない様だ。  仕方なくベンチから腰を上げ事務所の入り口に近づく。  するとアイツは俺の姿を確認すると一瞬体を硬直させ、後ずさりを二三歩した後に走り去っていった。  なんだよ、つれないな・・・  アイツとのファーストコンタクトに見事に失敗した俺は、ふてくされながら2本目のタバコに火をつける。  タバコの火が全体の半分くらい廻った頃、アイツはこっそりと帰って来ていた。  俺はまたつれない思いをするのは嫌なので見てみぬ振りをすることにした。  気がないふりでチラチラと横目でアイツの姿を見る。  アイツは見られてるのも気付かず、相変わらず弁当ガラの周りをくるくると廻る、その内バターになるんじゃないかと言う位くるくる廻る。  やがて弁当ガラ入れの中に手を伸ばし、何やらごそごそしている。  一通りごそごそした後、満足げな顔をしながらアイツはどっかに行ってしまった。  残されたのはアイツが散々散らかした弁当のガラ入れ。 俺はあっけに取られながらもあいつの散らかした弁当をふて腐れながら片付けていた。  
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!