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夏休み前、南奈はすっかり常連となった琥珀で、期限の迫った課題とにらめっこしていた。
霧都がアイスラテを運んできて、ついでに飴をテーブルに置き、人差し指を口に当てた。他のお客には内緒という意味だろう。南奈は口の動きだけでアリガトウと伝えた。
特別扱いされているようで嬉しい。
「下の名前で呼んでいい? 僕はずっと名前呼びされてるのに不公平だよね」
霧都は冗談っぽく言って南奈を見た。
「いいですよ」
南奈はドキドキしながら彼を見上げる。
「南奈さん」
視線を交わして名を呼ばれた瞬間、心臓が爆発しそうなほど高鳴り、南奈はくらくらしてテーブルに突っ伏した。
「大丈夫?」
肩に手を置かれ、ますます目が回りそうになる。
「……やばい」
これほど重症だとは思わなかった。
南奈は泣きたくなった。
「奥に行こう」
霧都は前と同じスタッフルームへ案内し、南奈をソファに横にならせた。
申し訳ない気持ちがこみ上げる。めまいで座っていられないのは本当だが、原因はたかが恋わずらいなのだ。
「ごめんなさい」
謝った南奈の頭に、霧都はそっと手をおいた。
「ごめんより、ありがとうって言われたいかな」
また泣きたくなる。
「ありがとう、霧都さん」
もう限界だった。
南奈の目から涙が滝のように流れ出てくる。
「どうしたの?」
「なんだか……止まらなくて」
泣きじゃくる南奈の頭を、霧都は大きな手で優しくなでた。
「疲れが出たのかな。上京してからずっと頑張ってたもんね」
「霧都さん」
「ん?」
「好きです」
黙っていられなかった。
「ありがとう」
にこっと笑うと、霧都は身を屈め、南奈のひたいに優しいキスを落とした。
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