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南奈の父は、S市の市営住宅で暮らしていた。
「個人宅の電話帳ってある?」
嶋永という家を探していると南奈が言うと、父は顔色を変えた。
「お母さんが話したのか?」
東京からまっすぐここに来たため、母には何も言っていない。
「なんでお母さんが関係あるの? 何か知ってるの?」
「話すわけにはいかない。お母さんと約束したからな……ただ、向き合って、重みを受け入れて生きて欲しいと、俺は思ってる」
ふと春都の怖い顔が浮かんだ。
両親がそこまで深刻になるなんて只事じゃない。
思い当たる記憶はないが、やっぱり南奈にはそういう何かがあるのだ。
「南奈が探しているのは、この家だろう」
父は手帳をめくり、ひとつの住所を示した。
嶋永誠と書いてある。
「このひとは?」
父は首をふり、何も答えなかった。
「行って来る」
南奈はスマホの地図アプリを立ち上げながら、父の部屋を出た。
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