3、恋のゆくえ

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3、恋のゆくえ

 たどり着いた場所にあったのは、蔵を改築した店舗だった。 「琥珀に似てる」  今は営業していない様子で、入口に板が打ち付けてあった。横からのぞくと裏に民家が見える。  ふと、一台の車が敷地に入ってきた。  南奈は息を飲み、運転席から出てきた人物を見つめる。  霧都だった。  ひどくやつれた顔をしていた。 「なんで来たの?」  不機嫌な声だ。 「心配で……」  霧都は南奈の腕をつかんで歩き出した。 「家には入れられないから歩こう」  いつもの穏やかさはみじんもない。  向かっているのが羽鳥川だと気がつき、南奈は足がすくんだ。 「やめて、お願い!」  霧都は抵抗する南奈を押し上げ、強引に堤防の階段をのぼらせた。  視界いっぱいに川が現れる。  息が苦しい……怖い!  南奈は地面に崩れ落ちた。 「霧都さん」  名を呼んで見上げると、彼は泣きそうな顔をしていた。 「……ごめん」  霧都は南奈を抱え上げ、川が見えない位置まで堤防を下りてそっと降ろした。 「ごめん」  再び謝った霧都の目は真っ赤だった。 「私、霧都さんに憎まれてるんですね。理由があるなら知りたい。ちゃんと知って謝りたい」  南奈はまだ苦しい呼吸を整えながら答えを待った。 「きみぐらいの頃、ホストやってたんだ」  低くつぶやくような声だった。 「実家を守るために東京に出て、春都と2人で荒稼ぎした。目処(めど)がついた頃、母が精神を病んだ。東京で入院させて、面倒みるために僕だけホストをやめて転職して……きみを見つけた」  霧都は悲しい目をしていた。 「初対面の男に弱味なんか話しちゃって、きみは無防備だったから、簡単にだませると思ったよ」 「私、だまされてません。だって未成年とは付き合えないって……」 「俺を好きになっただろ?」  霧都は真顔でそう言った。 「優男(やさおとこ)を演じた俺を」  南奈の目から涙がこぼれる。 「もう来るな」 「でも、霧都さんは意味もなく女の子だますようなひとじゃない。私に……原因があるんでしょう?」  霧都は唇を噛み、ふいに手を伸ばすと南奈をとらえて抱きしめた。強く、優しく。   「きみは何も知らなくていい」  耳元でそう告げると、霧都はすっと離れて背を向けた。 「霧都さん」 「俺の名を呼ぶな!」  霧都は強い口調で告げた。 「どうしようもないんだ。きみを好きになったって」
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