8.そして誰も……幽霊遊園地は奇々一髪!?

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 窓の外に広がる園内を見下ろす。適当に目を泳がせていると、ジェットコースターの出口に群がる旭たちの姿も見えた。一花はそれに気が付いて一の方を振り返ったが、彼はぼんやりと頬杖をついたまま、此方の様子にも気付いてくれないようだった。  楽しい筈の観覧車のゴンドラの中には、妙に重い沈黙が立ち込めている。それは自分が緊張してしまっているからだろうか。いつものようにカウンターを挟んでいれば普通に話が出来るのに、何だかむず痒くて仕方ない。 「あの……一」  この空間で声を出すのが憚れて、言いずらそうに名前を呼んだ。すると目の前の彼も漸く自分の方を振り返ってくれた。 「あ、ごめんごめん。呼んだ?」  けろっとして微笑む彼の表情を見て、勝手に張っていた緊張の糸も緩んだ気がし、思わず溜息が出そうになる。 「もうすぐ一番上だよ。私たちのお墓も見えるかしら?」 「何だよ、恭四郎君もおんなじ事言ってたぜ? 見える訳ないじゃないか」 「夢がないのねー」 「僕は探偵なんでね」  子供のように窓に張り付いて自分たちの墓を探す一花を、一は微笑みながら眺めていた。しかしその表情もやがて、また考え事に取り憑かれて暗く淀んでいく。 「キンダイチ先生……わがまま聞いてもらってすみません」 「貴方が遊園地を大切にしたい気持ちは分かりますよ。まぁ気にしないでください。……ただ、一つだけお伺いしたいのですが」  観覧車に乗りたいと言ったのは一だ。誘われた一花は大層嬉しそうにしていたが、一は景色を楽しむという目的ではなく、何かを探しだそうとしていたのだ。窓に張り付く一花もその事には薄々気付いていた。けれど彼の笑顔の中に潜む鋭い眼光を見て、追求する気にはとてもなれなかった。 「――貴方が取引していたクライアントの事を、少し教えて頂きたいんです」  悟が口にしたその特徴に欠片でも一致する者を見つけ出そうと、一には似合わない険しい表情を浮かべながら、彼はじっと窓の外を見下ろしていた。  ――『そして誰も……幽霊遊園地は奇々一髪!?』、了。
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