9.金田一の追憶

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「さぁっ、という事でやって参りました。曰くつきと噂される遊園地……いやぁ、流石は雰囲気ありますねぇ」  自撮り棒を片手に、遊園地の中で撮影をしている青年が一人。真っ暗な園内を歩いて行く。  雰囲気がある、そりゃ暗闇の中の遊園地で楽しい気持ちにはならない。しかしアトラクションたちはまるで今の今まで動いていたように感じられ、青年は少しがっかりしていた。これじゃあ怖く見えないじゃないか。もう少し廃れているもんだと思ったのに。後で編集で何とかするか……。  青年はアトラクションを回るのをやめ、物陰を見て回る事にした。何か映れば儲けもん。何もなくても、ちょっと怖そうなものを見つけてそれに適当な因縁つければ良いだろう。そう思ったのだ。しかし暫く回っても目当てになりそうなものは見つからず、青年は酷く落胆した。困ったな、これじゃ投稿出来ないぜ。ま、良いか。編集でオーブの一つでもつけておけば……。  ――がさっ。  その時、背後で物音がした。どきっと震えが走る。  後ろに何かいる。なのに、足に言う事が聞かなくて、振り返る事が出来ない。気付けば録画している事も忘れて、自撮り棒を握り締めていた。  ゆっくりゆっくり、その気配は自分の方へやって来る。そして――自分の肩に手を置いた。 「……う、うわぁあああっ!!!」  その瞬間動きを阻んでいた何かが消え、青年は弾かれるように動き出した。焦って身体を動かしその手を振り払う。そして握り締めた自撮り棒を、滅茶苦茶に振り回した。  がんっ――!  その時、自撮り棒に強い衝撃とその瞬間鈍い音が響き、遅れて何かが倒れる音も響いた。だが、青年の耳にはそんなものは届かない。今はただ逃げる事だけを本能が命令し、一目散にその場を走り去るのだった。
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