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遠くで、誰かが会話しているのが聞こえた。何処か懐かしい声だ。何というか、健気というか……。暗闇の中、その声を頼りにゆっくり目を開ける。忽ち眩しい光が、視界を包み込んだ。
「気が付いたぁ!」
次に飛び込んできたのは、見知らぬ少年の顔だった。ぼんやりする頭で、万吉は驚く事すら出来なかった。
「大丈夫? おじさん?」
少年の表情と言葉をはっきり捉える事が出来るようになると、万吉は僅かに口を動かして言った。
「……君は」
「僕は結城 旭! 名探偵の一番弟子だよ!」
にっこり微笑んで彼はそんな事を言ったが、その言葉の意味を理解出来ず、万吉は小さく首を傾げた。
「……此処は、何処だ?」
「探偵事務所。キンダイチのね」
「キンダイチ……?」
すると、何処からか扉が開く音がして、誰かの足音が近付いてきた。
「おっ、良かった。目を覚ましたんだね」
その時、万吉ははっとした。ぼんやりしていた筈の頭が、突然動きを取り戻した。
その声には間違いなく聞き覚えがあった。もう二度と聞く事が出来ないと思っていた、あの声にそっくりじゃないか。……そっくり? いや寧ろ……。
「よっ、元気してた?」
にっこり微笑んで万吉を見下ろすその男は、間違いなく二年前に事故で死んだ筈の親友、金田 一だった。
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