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「ほら、おいで、」
ホテルに着いて着替え終えた彼がベッドの上からわたしを呼んだ。なんの躊躇いもなくその手に導かれるように先生の隣に潜り込んだ。
隣に行けばわたしをギュッと抱きしめてやさしくキスをする。かわいい、なんて呟いて柔らかく微笑む。
いつからだろう、その笑顔が自分だけのものになればいいのにと思うようになったのは。
「せんせ、」
「んー?」
呼びながら先生の首に腕を回すと、なにどうしたのと優しい声で言いながらわたしを抱きしめた。なんでもないよと返せば、そうと笑ったのがわかった。
ねえ、先生、なんで先生はわたしのものになってくれはしないんだろうね。好きだよと伝えられないのが、つらい。
そう、彼には婚約者がいる。どんなに思っても叶わないこの思いは、ただ自分を苦しめるだけのものだ。
「顔あげて、」
「んっ、」
わたしの顎をクイッとあげて降ってくるやさしいキス。もっと、とせがむように唇を押し当てれば、また柔らかく微笑みながらそれに答えてくれる。啄むように短いキスを繰り返して彼は言う。
「だめだ、ハマりそう。」
と、見つめた彼の瞳の奥が少しだけ揺れた気がした。
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