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半年前に、六年程の夫婦生活が終わり戸籍にバツがついた。
相手には結婚当初三歳の連れ子が居たが、幸いけいことの相性が良く、まるで実の母娘の様に六年間を過した。
先に過ごし辛くなったのは、相手の方だった。
要は、親権を得たはいいが男手ひとりにはまだ手に余る三歳児。そんな娘の面倒を見る誰かが欲しかっただけなのだ。
九つになり物分り良く育った義理の娘は最後までけいこと離れたくないと泣いていたが、けいこの経済状況を見た上で実父から親権を得るなど到底叶うはずがない。
三十五歳を迎え、けいこは一人となった。
(そういえば、あの子はアイドルになりたいって言ってたなぁ)
不意に舞い込んだ紙切れに書かれた文字に義理の娘を思い出す。
産みの痛みは知らないが、幼稚園の運動会で披露するダンスを一緒に練習した事だって昨日のことの様だ。
本番ではこちらに気を取られて振りが抜けてしまい、帰ってから悔しくて泣いていた。
「元気にしてるかなぁ」
誰に言うでもない独り言を零して、けいこは何気なく先程捨て置いた名刺をもう一度手に取るとスマートフォンを弄って住所や電話番号を検索した。
「……やだ。なにこれ本物?」
検索した結果、その名刺に表記された内容は全て正式にヒットした。
半信半疑のままけいこは起き上がり、再度くまなく名刺とネットに上がった会社情報を見比べる。
(マネージャー業務とかかしら? こんな風に仕事を紹介してるのかは分からないけど……)
もしかしたら今より実入りの良い仕事につけるかもしれない。と、けいこに僅かな希望が湧き上がった。
(電話して話を聞くだけなら大丈夫よね。怪しければそのまま無視してしまえばいい訳だし)
ふと時計に目をやると深夜十二時を過ぎた所だった。
(この時間は流石に失礼ね。明日は休みだしお昼頃にかけてみよっと)
先程とは打って変わって今度は丁寧に名刺をテーブルに置き直し、けいこは想像もつかない芸能の世界を思い描いて一日を終えた。
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