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門田が到着するまでの間、事務所の空気は最悪と言って相違ないものだった。
アケミはあれ以降けいこの前には現れず、小柄な女はユミという自分の名前と自己紹介も程々に、けいこの顔色をずっと伺いながら先程のアケミの発言を必死でフォローして、沈黙を少しでも避けようと次から次へと取り留めない話題を振り続ける。
その様があまりにも不憫で、けいこは逆に気を遣い続けた。
つまり先程のアケミの文句の対象はここに居る全ての人間と、マネージャーだったらしい。
面と向かって激昂する彼女はある意味分かり易くていいじゃない。などとけいこはぼんやりと思いながらユミの話を聞いていた。
さきえは一度だけ事務所へ現れたが、書類を見比べつつノートパソコンになにやら打ち込むとまた奥の扉へ消えてしまい、それ切りだ。
ユミとの会話でさきえ以外アケミもユミもスカウトだった事を知り、漸くけいこの中でこの突飛な状況にも現実味がわいてきた。
しかし、けいこは自分が思うのも失礼だとは感じつつ、一番この状況にミスマッチな印象のさきえがスカウトでは無い事が不思議だった。
そして一番気になったアケミやユミがこのスカウトを受けた理由については、色んな話をする割に結局のところ分からずじまいだ。
ユミの話を聞けば聞くほど、けいこには疑問しか浮かばない。
また、アケミとさきえが入って行った扉の向こうは二重扉になっており、仮設ながらダンス等をするスタジオがあるらしい。
あれだけよく通るアケミの声が以降さっぱり聞こえなくなったのはその為の様だ。
こんな雑居ビルの中にこれだけの設備を準備したのかと思うと、何も納得はしていないながらも今日の見学先である奥の扉に、けいこは僅かながら興味が湧いてきたのだった。
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