8人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が初めて彼女を見たのは、大学のキャンパスだった。
桜の花びらが舞い散る下で、それが降りてくるのを、彼女はまぶしそうに見上げた。
大学ゼミの新歓を兼ねた花見の席でみかけたその仕草を、俺はその日、一日中繰り返し反芻していた。
「お疲れさまでした。これからよろしくね」
そう言って挨拶を交わしてから、解散になるはずだった。
これから帰るという彼女の隣を、なんとなく並んで歩いた。
ふと見かけた植え込みに一輪の花が咲いていて、名もないその小さな花を俺は摘み取った。
「あげる」
差し出したそれを見て、彼女は驚いたようだった。
「わ、何の花かな。なんだろうね、これ」
なかなか受け取ろうとしないので、俺はその小さなピンク色の花を、彼女の鼻先に押しつける。
「だから、あげるって」
ようやく差し出した手の平に、彼女に触れないようにそっと手渡す。
「ありがと」
それだけで、俺は満足だった。
最初のコメントを投稿しよう!