一番大切な人

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 良亮はTwitterもInstagramもアカウントは公表している。 「おじさんなのに、使いこなしてるよね」  それが最近の評価であろうか。  同じものをポストしても反応が良いのはTwitterの方だ。つい、反応するのもTwitterを選択する。まだ若い藤尾と相談して文を作り写真を選ぶ。公式のInstagramアカウントの管理はほぼ藤尾に任せた。  しばしば、大臣経験者から野党議員までインターネットを使いこなしているふりをして炎上するが、幸運なことに良亮には炎上経験はない。おそらく、誰かに相談するという、ワンクッションを置くことにより炎上を防いでいるのだろう。  良亮は、実はもう一つアカウントを持っている。  二つ目のInstagramのアカウントはいわゆる「裏垢」である。非公開かつ、写真の投稿は0。「いいね」を押したこともない。つまり、フォロー0、フォロワー0の、休眠アカウントである。たまにスパムアカウントからフォローリクエストがあるが、スパブロだ。  良亮は、その休眠アカウントから、フォローもしない一つのアカウントを見る。  わざわざそこまでするのは、フォローアカウントからは最新ログイン時間がわかるからである。 「ほんっとあいつ、今何してるんだよ」  そのアカウントのフォロワーは4。フォローは0である。ジオタグもハッシュタグも一切使わないので、育たないアカウントである。 「銀座、なう」  昨日の午後15時に更新されただけだ。晩秋の銀座の少し赤みがかった光に、心なしか雑踏が寒そうにしている。  銀座で、誰に会ったんだよ。何食ったんだよ。  午前2時なのに、これまで更新がない。  手に持ったiPhoneを思わず壁に投げつけたくなった。  いやいや、大きな物音を立てれば、潔子や娘たちが起きるだろう。  そのアカウントの写真は、街角のスナップだけである。たまに、ビールと焼き鳥のようなものが映る。  良亮は先週末らしい、台北の写真を食い入るように見る。今週幾度も見た写真の一枚である。  光の使い方がうまいんだよな。  タクシーの助手席からだろうか。前を走る車のテールランプが揺れる様も良亮を感傷的にさせた。  40を過ぎてなお独身のこのアカウントに女っ気のある写真はない。バブル世代にしては「枯れた」写真だけだ。バブル世代といっても、もう最後の方だから、なんとも物悲しいものがある。  このアカウントの持ち主は良亮の財務省時代の同期、竹村崇(たけむらたかし)。  正確には、良亮の部下だった男だ。 
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