一番大切な人

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 新任の外務大臣・染井良亮(そめいりょうすけ)は、ふぅぅぅっとため息をついて田園調布の自宅のソファに身を投げた。  日曜の深夜2時である。妻の潔子(きよこ)と娘たちはすでに寝ているだろう。良亮が帰宅した物音に反応すらない。  セントラルヒーティングで家の中は、潔子の手のように暖かい。  良亮の片手にはこの秋に発売された新型iPhoneが握られている。  Twitterを確認して、今日羽田空港に送った某国大統領との自撮りツーショットにどういう反応があるのか確認する。  今回は国賓待遇ではないのに日本の外務大臣が見送ってくれたと、南の島国の大統領は喜んでくれた。そういう積み重ねもまた、外交のあり方であろう。  公認マークのおかげで、フォローしていない人からのリプライを表示しないこともできる。しかし、良亮はエゴサーチを大切にした。的を外したものが多い。それでも、人の声を聞くのがこの仕事である。  それは、ポピュリズムと呼ばれようが、民主主義国家である。あまねく有権者の声に耳を傾けることは必須だ。  もちろん、聞いてなお、従うとは限らない。それであっても、有権者に幅広く門戸を開く、その姿勢は見せるべきであると信じている。  車が発進する音がした。  いかに公務といえど、この深夜に公用車を動かすことは憚られた。公設秘書の藤尾基也に運転させて帰宅した。藤尾はそれに乗って田園調布から自宅まで帰る。明日の朝は公用車が迎えにくる。  物音がしないことを確認して、良亮は別のアプリを立ち上げた。  Instagramである。
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