夕凪の約束

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「やっと会えた」 そう言う彼の腕の中の華奢な身体は小さく震えている。 ようやく、離れられたのに。 彼からのプロポーズを振り切って、決して丈夫ではない身体を抱えて、空を超えてしか辿り着けない土地で生きていくことを決めたのに。 夜の帳が降りていく。それに抗うように、夕暮れは金色の光を放ち水面に光を散らしている。キラキラ、キラキラ、私の心と水面が揺れる。 「ええの・・・?」 「お前しかおらん」 キッパリ言い放つ彼の肩も震えていた。 夕方の肌寒い空気のせいではないことくらい分かっていた。 会いたかったって、彼の全身が言っていた。 「うち、うちな、言うたやろ、身体が弱あて、子どもが出来へんから」 「ちゃうねん。お前とおりたいだけや言うとるやろ。それに、前の女房との子がおる」 「でも、こない弱虫の母ちゃんじゃあかんやろ」 「せやから、俺がおるやないか!」 彼は顔を上げた。 「2人で育てたらええやないか・・・」 涙でくしゃくしゃで、なんだか彼の方が子どもみたいで、じんわり愛おしさが込み上げる。守ってあげたいって思った。 「わかった、じゃあ、待っとって。うち、もっと強うなる。ええお母ちゃんになれるようになるから。 ほんで今度は、うちがアンタを迎えにいくね!」 私は沈みゆく太陽に負けないくらい、精一杯の笑顔を向けた。彼は何度も頷いて、もう一度強く抱きしめてきた。 ーーーーーーーー 「それが母ちゃんと俺の馴れ初めやで!」 丈夫な身体どころかゴリラみたいなムキムキボディーを手に入れた母ちゃんは 「恥ずかしいわー!!」 と真っ赤な顔して父ちゃんを片手で吹っ飛ばしとった。 終わり
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