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相手はすぐには答えを返さず、ほんの少しの間黙っていた。
それは、自分が切り出すタイミングをはかったと言うよりも、私がいくらか落ち着き、彼女の話に聞く耳を持つのを待ったようにも感じた。
「そうね、あなたの言うことは正しいわ。けど、もともとあまりにも反りが合わないものを無理にすり合わせるのもどうかとも思うの。あくまでちょっとずつ譲歩した結果それ以上の喜びが得られる場合の話だわね」
そこで彼女は再びついとこちらに向いた。
その眼差しはこれまでの中で最も真っ直ぐな瞳で私と視線を合わせた。
「私はね、この人が良いと思った人と結ばれました。この人で良いと思った人ではなくね。それは私にとってとても幸運だった事なのかもしれなくても」
それは理想論だ。この人がたまたまそうだっただけだ。
「だから私があなたにできるいちばん良いアドバイスは、出会いを疑わない事。あなたでいる事」
私はしばらく言葉が出てこなかった。
言いたい事が見つからなかったからではない。反論しようとする自分と、その言葉を信じたい自分がせめぎ合っていたのかもしれない。
運命の出会いなんてあるのだろうか。そんなものがあるのならどうして添い遂げられない人がいると言うのだ。
それに、若い頃ならいざ知らず、この歳になってそうそうチャンスなんてあるものか。小さなきっかけも逃す訳にはいかないのだ。
彼女は再び表情をふわりと和らげた。
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