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「あらあら!気づかなかったわ!あなたに見せた時かしら…… これを届けに? 」
彼は荒い息のまま笑った。
「だって、大事なものだって言ってましたでしょ~?急いでいるって言ってたし、駅の近所の喫茶店行くってことは覚えていたんだけど、店の名前がわからなくて、この界隈探しまわっちゃって、遅くなってすみませんでしたね」
「まぁまぁ、それはそれはありがとうございました」
私はそのやり取りに違和感しか感じえなかった。だってどう見てもこの二人は、と、そう考えていた刹那、男性は私の隣に矢の如く移動し威嚇するかのように両腕を広げた。
思わず両手で頭を隠すと彼の向う側に大きな影が横切った。
派手な水音。
呆然とする私。
両腕の隙間から覗いてみると男性はけらけらと笑っていた。
「あ、あの……」
「大丈夫ですか?ああ、平気そうだ。いやぁ良かった」
髪から滴る滴を掃いながら、彼は自分の姿を確認していた。
「やぁ~ 濡れちまったなぁ」
「ご、ごめんなさい! 」
私は訳も分からず謝りながら取り出したハンカチで彼の体をぬぐおうとした。
「ああっと!お嬢さん、いいですいいです!そんなきちっとした格好をしていらっしゃるんだ。結婚式かなんかでしょ?汚れたらいけない」
「だって、あなたは私をかばって」
大型トラックがかなりの速度でさしかかって来た事にいち早く気付いた彼が、先ほど青空を映していた水たまりを派手に跳ねあげる事を察してとっさにかばってくれたのだ。
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