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駅前のターミナルでバスを降り、駅入り口の方に歩いて行く途中の事だった。
正確な年齢はわからないがすっかり白髪になった老婆が肩で息をしながら壁を背に座り込んでいた。
駅前なのでいくらか人目は引いてはいたが、誰一人傍に寄ろうとはしない。それはそうだ、触らぬ神に祟り無しだ。
私も顔を伏せて前を通り過ぎる事にした。しかしああ、よせば良いのにその刹那ちらりと相手の顔を見てしまったのだ。
まっすぐに繋がる視線。その人の良さそうな顔。
そんな顔されたら放っておけないじゃない。
私は気づかれない程度に肩をすくめると怖がられない様に笑顔をつくって近づいて行った。
「おばあちゃん、どうしたの? 」
老婆は血色も良く、身に着けている物も決して粗悪なものではなかった。
彼女は何かを言いたそうにしていたが息が上がっていてすぐ話せない状態の様でにこやかな表情と両手で気遣った私に礼を示しているようだった。
「どこか気分が悪いの? 」
老婆はそれとわかる程度に品良くかぶりを振り、少し息を整えた後ようやく小さな声を絞り出した。
およそ老婆とは思えない穏やかで澄んだ声だった。
「年甲斐もなく……はぁはぁ…… 走ってしまったものだからね…… ご心配おかけして……」
そうか、具合が悪い訳ではなさそうだ。
「お嬢さん…… はぁはぁ、実は喫茶店を探しておりましてね……、なかなか見つからなくて焦ってしまって……。待ち合わせがあるのよ。もしご存知でしたら案内していただけませんか?もちろんお礼に御馳走はさせて頂きますから。小町藤と言うお店なの。」
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