小町藤

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 ああ、数年前出来たあのちょっと小洒落たオープンカフェか……、まだ入った事は無いな。遠くは無いけどちょっと教えにくい所だなぁ……。 「道順なら交番が近くにあるのでそこまでお連れしますよ」 「お巡りさんは苦手なの……、お嬢さんが連れて行ってくれると本当に助かるわ」  時間的にはまだ余裕があるが、こんな見ず知らずの老人に関わって大丈夫なのだろうか。  長い世間話の相手にされるのはまっぴらごめんと言いたい所だが……。こう言う幸せしか知らないような笑顔を向けられてしまうと無下にできない自分がいたりする……。 それに、なんだか赤の他人には思えない雰囲気を彼女は持っていたんだ。 「じゃ、 じゃぁ ちょっとだけなら…… 先に言っておきますけど私、今日とっても大切な用があるんです」 「そう。私もだわ」  老婆が目をなくして笑う。 「大げさに聞こえるかもしれませんが、人生を左右する様な事なので遅れる訳にはいかないんです」 「そうね、私もなの」  ようやく息が整ってきた老婆が立ち上がるのに手を貸すと、私は駅からいくらか離れたオープンカフェに彼女を案内して行った。  まぁ、まだ時間はある。2、30分もかかることはないでしょうし問題はないかな。  老婆は助かります助かりますと腰を低くしてお礼を言った。  相手の歩幅に合わせていつもよりゆっくり歩き始めると彼女は思い出の場所なんですよと言った。  思い出の場所なのに正確に覚えていないんだ……。なんだか歳をとると言うのは悲しいものなのかな……。
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