小町藤

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「だって、本人は損したなんて全く思っていなくて、むしろ良かった良かったなんて笑うのよ。もう可笑しくなっちゃって。いっつもそんな感じ。きっと私がついていなかったらいろんな人に騙されていたと思うわ。もしかしたら騙されたことにも気付かないかもね。ウフフ」  ご苦労があったのですかといってみたら彼女は笑顔のままちょっとだけ肩をすくめた。 「苦労だったのかしらね、でも私には苦労ではなかったのよ。だってあの人と一緒だったし、いつも彼はにこにこしていました。彼と一緒に頑張れることってね、なんだかとっても素敵なことだって思えた。ほら言うでしょう?苦境の中にあると絆が生まれるって。あれなのかしらね。ウフフ」  苦境の中にあって絆、そんなことは良く言うけどそれは他と隔離された状況だからじゃなかろうか。とっとと見切りをつけた方がましな気がするけど。 「大切にされていたんですね」 「そうね、ありがたいことね」 「いえ、あなたがですよ」 「ああ。ウフフ!そうなのかしら。ああ、そうね、そうだわ。もちろん大切には思っていたけれど。ああ、そうね、私も彼を大切にしていたのね」  なんて間抜けな事をこの人は言っているのだろう、でも頬を染めて笑っている様子を見ているとなんだかそれがうらやましく思えた。自分が愛している事さえうっかりするほど相手に愛されている実感があったということなのかもしれない。  そうか、この人はきっと理想的な結婚をしたのだろう。
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