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その後も目的の場所に着くまで私はえんえんと『結婚生活の素晴らしさ』を聞かされる羽目になった。
それはある意味結婚の苦労話をされるより堪えるものだった。
それは先に結婚した友人達が時折漏らしてくる愚痴とはかけ離れたあまりにも現実離れした世界だったからだ。
本当にこの人は旦那さんが居るのだろうかとさえ思えてきた頃、フェンスやプランターから薄紫の沢山の小さな花が房の様に彩るお店が見えてきた。目的の『小町藤』である。
「ああ、あそこです」
「ほんと、ありがとうお嬢さん。お約束通りごちそうさせてね」
「いえ、私は用がありますからこれで」
私は一刻も早くこの『届きそうもない理想』から逃げ出したかった。
「あら、約束は果たさせてくださいな。お願い。そうね、五分だけでもいいのでこの年寄りに付き合ってくださいな。もしかしたらお見合いに有利なアドバイスもできるかもしれないでしょう?待ち人が来るまでとは言わないわ、寂しいお婆ちゃんに少しだけ付き合って頂戴な」
先程はお見合いなんてする必要ないと言っていたくせに……。とはいえこうすがられては無下にもできなくて、私は渋々五分だけという条件で納得した。
たまたま空いていた一番道沿いの店外の席に彼女は座るとウェイトレスに注文を告げた。
私も体面に座り同じものをと告げる。
わざと時間を気にしていますよと言う風に腕時計をテーブルの上に置く……。
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