予報はずれの夕方

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「遠滝さん、好きな席に座ってかまいませんよ」 そう言って、レノンはテーブル席を手のひらで指し示した。俺はお言葉に甘えて、一番近くにあった席に座った。 「詩羽は大丈夫そうか?」 「はい、今、シャワーを浴びてます」 「そうか」 「まさか覗く気ですか?」 「まあな」 「ダダダ、ダメです!」 「へぇ、人じゃないと言うわりには、こういうときは人扱いなんだな」 「それは……確かに……でも、なんかダメな気がする」 レノンは俺の反論を真に受けて、ごにょごにょと悩み始める。いや、ここは普通にダメだろ。俺が人じゃなくても、俺を利用した盗撮の危険性が残っているとか。まあ、俺を利用した盗撮って、なんだよって自分で自分にツッコミを入れるが。 「いや、真面目に考え過ぎだって。単なる冗談だよ」 「冗談だったんですか?」 「そりゃ、そうだろ」 「えー、なんでそんな、酷いです」 「そう、不貞腐れるなって」 機嫌を少し損ねたレノンだが、俺はその様子を見てよかったと思う。ダンボール箱の中で泣いているより、断然いい。だいぶ気分が晴れたようだ。 「いじわるです」 「悪い悪い」 だいぶ警戒心を解いてくれたようなので、この辺りでヒアリングを……。 「ところで、遠滝さん、オカルト調査兵団って何ですか?」 「ぶふっ!」 俺は思わず吹き出してしまった。なぜ、その単語を知っている!? まさか!? 「あ、すみません、詩羽さんが言ったわけじゃないですよ。詩羽さんの心の声が聞こえちゃって……」 「いや、心の声、駄々洩れ過ぎるだろ」 「いや、その、そうじゃなくて……」 俺が詩羽のバカ野郎と殴り込みを決意しようとしたところで、レノンが俺の行く手を阻んだ。 「本当に違うんです。私が勝手に心の声を読んだから、悪いのは私なんです」 いや、守秘義務違反を犯したうえに、レノンが悪者になっている状況は黙って見過ごすわけにはいかないだろ。 そう思ったのだが、レノンは俺の思いを汲み取ったのか、首を振った。 「遠滝さん、私に用があるんですよね。わざわざ、詩羽さんがずぶ濡れになってでも、家に乗り込んで、お話できる状況を作り出すくらいの用が」 「いや、ずぶ濡れになったのは、あいつの勝手で、俺はそこまでするつもりはないって」 「わかっています。それも詩羽さんの心が言っていました。それで、教えていただけますか? オカルト調査兵団とは何なのか。そして、この町を中心に同時多発的に起きたムレンプチュオリスクの夢について」 「……あとで、あのバカは説教だな」 主に情報漏洩の罪で。 「いや、だからそれは私が勝手に……」 「違う」 俺はぴしゃりとレノンの言葉を遮った。レノンは少し驚いて、固まる。 「いや、悪い。だけど、それは違うんだ。だから、レノンは気にしなくていい」 「そうなんですか?」 「ああ、だから大丈夫だ」 俺はレノンに言い聞かせるように、言う。それで、レノンは一度目を閉じて、小さくゆっくり一呼吸する。 「わかりました。そういうことでしたら」 「じゃあ……」 「あーっ!!」 と、突然大きな声を上げて、詩羽が奥の部屋から出てきた。レノンの服なのかやたら可愛らしい服を着た詩羽が、俺の方にやってくる。 「凪秋がレノンちゃんいじめてるぅ!」 「いじめてねぇよ!」 「いじめてるよね、レノンちゃん?」 「はい! いじめられてます」 「おい!」 「あはは、レノンちゃんに捨てられてやんのー」 「うっせー」 俺は詩羽のうざ絡みに辟易しながらも、レノンが笑っているのに気が付いた。 詩羽の介入で、さっきの話が完全に遮られてしまったが、まあいい。俺たちの存在が、誰かの笑顔になるのなら、それは嬉しいことだと思うから。 落ち着いたら、本題に入ろう。 俺はそう思い、今のじゃれ合いに甘んじることにした。
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