3.なし崩し的にというより飯崩し的に

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「うな丼……」  と怪訝(けげん)そうにつぶやく御神本(みきもと)さんを見て、何となく優越感を覚えてしまう。  うな重のことを見たことがなかった自分のことはキッチリ棚上げして、「(うっそ)だぁー。世間知らずにもほどがありますよ!? 美味しいのにぃ〜」と言いながら鼻の穴を膨らませたら、「頼綱(よりつな)と呼べと言ったはずだよ、花々里(かがり)。そんな他人行儀な呼び方は認めん」と、しっかり釘を刺されてしまう。  しかも一生懸命力説した「うな丼」のくだり、完全無視だし。 「で、でもっ」  他人ですしっ!  そう言おうと口を開きかけたら――。 「目の前のうなぎが食いたければ従うことだ」  チラリと冷ややかな視線を流されて、私はグッと言葉に詰まる。  こんな美味しそうなビジュアルと匂いを振りまかれて、視覚的にも嗅覚的にも限界だ。  マテなんて出来るわけない――。  うなぎだけならまだしも、お重の横には美味しそうなお吸い物までついてるんだもん!  三つ葉のいい香りがお出汁の匂いと絶妙のハーモニーを奏でながら私の鼻腔をくすぐるの。  正直言って、さっき御神本(みきもと)さんから香ってきた香水?の香りより、私は三つ葉のお吸い物の薫香に軍配を上げちゃう!  生唾ゴクリ。ついでにお腹の虫も盛大に「プライドなんて捨てちゃえよー。プライドで腹はふくらまんぞ?」って大合唱。
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