3.なし崩し的にというより飯崩し的に

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「よ……。りつ、な……、さん」 「さんも必要ない」  むむぅー! どこまで人の足元を見れば気が済むの!  お腹一杯になったら絶対に反旗を(ひるがえ)してやるんだから。覚えときなさいよ!?  この時の私、食べたらさらに御神本(みきもと)さんに対して負い目が増えるだなんて、思いつきもしなかったの。  ホント、空腹って判断能力鈍らせて……怖いっ! 「よ……り、つな」  グッと喉の奥から押し出すように何とか彼の名前を絞り出してから、「……こそ、うな丼知らないなんて損してると思います!」とささやかな報復を添加。  ふふふ。  村陰(むらかげ)花々里(かがり)18歳。伊達に世間の荒波に揉まれて育ったわけじゃなくってよ?  でも、今回は相手の方が上手(うわて)だったみたい。  フッと小馬鹿にしたように笑ってから、 「俺の知ってるうなぎ料理はうな重だけじゃないぞ、花々里。キミはきっと(ひつ)まぶしや肝吸いも知らんだろう。そんなヒヨッコにうな丼ひとつでバカにされる覚えはない」  とか。  貴方も大概負けず嫌いですね?  でも――。 「しっ、知らないって認めたら……」 「認めたら?」  正面から整ったハンサムさんに見つめられるのってやっぱり馴染めないっ。  きっとそれで、なのよ。 「――食べさせてくれるんですか?」  なんて、まるで次の機会を期待しているような愚かなことを言ってしまったのは。  だってだって。私、この世にある食べ物の中で、うなぎが一番大好きなんだもん。食べてみたいじゃないっ。
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