3.なし崩し的にというより飯崩し的に

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「もちろん。約束しよう。ただし――」  そこまで言って、御神本(みきもと)さんがスーツの内ポケットから一葉の書類を取り出した。  もぉ、何なの、何なの。  学費を出していただいた借用書とかかしら。  こんなことしてる間にお料理、冷めちゃうよ?  後で良くない?  そわそわと眼前のうな重とお吸い物を気にしていたら「これにサインをくれたら、ね? 食事もそれからにしよう」とか。 「確認なんですけど……サインでいいんですよね?」  サインひとつで目の前の美味しそうなお料理も、まだお目にかかったことすらない(ひつ)まぶしや肝吸いも私のもの?  ふふふ。  サインのひとつやふたつ、お安い御用よ?  だって日本では署名の横に捺印がないと、どんな書類もあまり効力を発揮しないんでしょう?  私、今日は印鑑持ってないし、いざ捺印を迫られてもない袖は振れないわ。  持たざる者の強みってやつね。  薄茶色のA3サイズが2つ折りにされたと(おぼ)しき用紙の下部の方を指さされて、同じくスーツのポケットから取り出された高級そうなボールペンを手渡される。  お腹空いたーって思いながらサラサラッと名前を走り書きしたら、書き終えたと同時にギュッと手を握られて――。
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