3.なし崩し的にというより飯崩し的に

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「なっ、何ですかっ」  言うと同時に親指にヒヤリとした何かを押し当てられて、そのまま名前を書いた横にポン、と。  あ、ついた。  理解の追いつかない頭でぼんやりその書類を眺めたら、署名と赤いの――あ、これ拇印(ぼいん)ってやつじゃないの?――が載っかった欄に、小さく「妻」という文字が見えて。  ん?  ちょっと待って、ちょっと待って! これってもしかして――。 「御神本(みきもと)さん……」  バシッと署名したばかりの用紙を押さえようとしたら、わずかばかり遅かった。さっさと回収されてしまう。 「何度も言わせるな。俺のことは頼綱(よりつな)と呼べ」  そそくさとそれを折り畳んで内ポケットに仕舞いながら、「後日証人欄にキミのお母様に署名捺印と同意の旨明記いただこう。証人のあと1人はまぁ何とかなる」とか。 「――さぁ、約束通り召し上がれ」  この話はここで終わり、とばかりにさっさと話題を切り替えられて、私は条件反射みたいに「いただきます」をしてうなぎをひと口ぱくり。  ……してる場合じゃなーい!  そんなんじゃ誤魔化されないんだからねっ?  一生懸命大好きなうなぎをもぐもぐしながら、御神本(みきもと)さんを睨みつける。睨みつけながらもうひと口パクリ。
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