3.なし崩し的にというより飯崩し的に

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「む、胸元に仕舞い込んだ書類っ! もう1度見せてください! 証人欄とか母の同意とか何ですか? 私が名前を書いたところ、〝妻〟って書かれてた気がするんですけど! ――ゆ、指だって勝手に使われたの気になりますしっ」  そこでさっき朱肉をつけられてほんのりと赤く色づいたままの右手親指を彼に向かって突き出す。 「――何を今更」  はぁと溜め息混じりに言われて、私の方に義があるはずなのに、何故かグラつきそうになる。  え? おかしいの、私?  ち、違う……よね? 「さっきの書類の証人欄を成人した誰かに埋めてもらって、キミのお母様に結婚に同意する(むね)の但し書きを頂いて役所に提出すれば、村陰(むらかげ)花々里(かがり)は俺の妻の御神本(みきもと)花々里(かがり)になる。それだけのことだ」  開いた口が塞がらないという言葉を、身をもって経験したのは今日が初めてです!  口をポカーンと開けすぎて、危うくよだれが垂れてしまいそうになる。危ない、危ないっ。私は慌てて口を閉じた。  だ、だいたいっ、プロポーズとかありました?  私がおバカで忘れてるだけ?  妻になること前提で云々がそれだとしたら「んなバカな!?」ですよ?  何にしてもっ。そんなインパクトの薄い求婚ダメでしょう?  百歩譲ってそれがアレだったとして……私OKしてないしっ。  そういう諸々(もろもろ)をすっ飛ばして婚姻届書かせる人って、絶対おかしい人よね? 感覚ズレてるの、御神本(みきもと)さんの方だよね?
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