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と、玄関まであと少し、というところで、
「花々里……、甘くていい匂いがするね」
どこかうっとりとした声音で頼綱からそう言われて……「ん? 何が?」と思う。
でも、彼の言葉に鼻をヒクヒクさせてみれば、家の方から甘い香りがしてくるのに気が付いて、「八千代さん、お菓子作ったのかなっ?」って思わず声を弾ませた。
にっこり笑って「プリンかなっ? カラメルソースみたいな匂いがするよね!?」ってワクワクしながら頼綱を見上げたら、頼綱ってば「いや、俺が言ったのは花々里の……」と、何かを言いかけるの。
その言葉に「ん? 私の?」って小首を傾げたら、「いや、いい」ってやめちゃって。
変な頼綱。
さては私より先に美味しい匂いに気付いたのが恥ずかしかったのかな?
もう、可愛い所があるんだからっ!
頼綱はそんなに筋肉質には見えないのに、やはり男性だ。
私を抱く二の腕にも、身体を預けた胸板からも、着痩せするけれどしっかりと付いた筋肉の存在を感じさせられて。
甘い香りに負けないくらいの頼綱のいい匂いに包まれて、私はソワソワしたまま玄関をくぐった。
玄関先で頼綱から降ろされた私は、そのままひんやりと足触りのいい床の上で頼綱からパンプスを受け取った。
頼綱と離れたことが残念なような、ホッとしたような……。何とも複雑な気持ちに包まれて、呆けてしまう。
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