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「あ、あのねっ。私……まだ、その……お、お手洗いに行けてないからっ!」
切羽詰まった私は、現状を何とか打開したい一心で、一か八か。
恥ずかしさをかなぐり捨てて幼児みたいに「寝る前にトイレに行かないと漏らしちゃうのよ!」みたいな発言を発動してみたのだけれど。
「次から次へと。花々里は本当に可愛いね」
まるでそんな作戦なんてお見通しだよ?って言われているみたいにクスクスと笑われてしまった。
それでもやっとのこと、毛布の合わせ目を解くようにして私を解放してくれた頼綱に、ホッと安堵しながらペコリと頭を下げる。
「い、行ってきます……」
トイレに行きたいのだと駄々をこねた手前、例え嘘だと見透かされているとしても行かないわけにはいかなくて。
社交辞令よろしくそう告げてみたものの、何だか今更のようにめちゃくちゃ恥ずかしくなってしまう。
「花々里、トイレの位置は把握してるかい?」
私を送り出すと同時、ベッドに起き上がった頼綱から、ククッと笑いながらそう問いかけられた私は、「ばっ、バカにしないでっ!」と照れ隠しにプンスカする。
でもそのお陰で少し緊張が解けて。
「い、いつもちゃんと行けてるし!」
そう豪語して扉を開けて――。
あ、と思う。
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