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「花々里。申し訳ないが、もう1度、俺の目を見て嫌だとハッキリ声に出して拒絶してくれないか?」
恐る恐るまぶたを上げてみると、熱に潤んだ瞳でじっと見下ろされていて、私は頼綱から視線が外せなくなる。
このままだと私、頼綱に食べられてしまうの?
さんざん美味しいものを沢山もらったのだから、私、頼綱になら食べられてしまっても文句は言えないのかも知れない。
でも――。
もう少し。
そう、せめて寛道とのことに決着がつくまでは待って欲しい。
「頼綱っ、ダメっ! 私、まだ気持ちの整理が出来てないっ! だから……お願い。離し、て……っ?」
大きくて獰猛なトラを制するつもりで、男の人の目をした頼綱に必死に訴えかける。
頼綱は、その声に私を押さえつけていた手に一瞬だけグッと力を込めて、まるで未練を断ち切るみたいに小さく吐息を落とすと、ゆっくり離れてくれた。
途端、腰が抜けたみたいにストン……とその場に座り込んでしまった私に、もう1度先ほど剥ぎ取った毛布をふんわり被せてくれる。
「……花々里。早くトイレに行っておいで?」
私を抱き起こしてくれながらそこまで言って、不意に眉根を寄せると、
「あと――申し訳ないが、今夜の俺はキミを襲わないって約束が果たせそうにない。……コロコロ言うことが変わって申し訳ないが、自分の部屋で寝てくれるかい?」
淡く口の端に笑みを浮かべられた私は、胸の奥がチクリと痛んで――。
気が付いたら「明日からは……一緒に眠れる?」と聞いてしまっていた。
きっとこのまま自室に戻っても、今夜はなかなか寝付けないんだろうな……。
どうせなら、頼綱もそうだったらいいのに。
そんなことを思ってしまって、自分でも驚いた。
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