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そんなことを思っていたら、
「そう。それじゃあ仕方ない――」
ハンドルを握ったままの頼綱が、「あんまり気は進まないけど、俺が一肌脱ごう」と意味深につぶやいた。
それを聞くとは無しに聞いて。
握りしめたままのスマートフォンに視線を落としたまま、私はいつまでも逃げているわけにはいかないのに、って無意識に眉根を寄せる。
私が、意に添わない結婚をしなくていいように、母の前で一芝居うってくれた寛道に、もうその必要はないのだと伝えなくちゃ。
そう言えば、あれにしたって寛道、もしかしたら本気で私を好きだと言ってくれていたのかも知れないのに。
もしもそうだとしたら余計に。
頼綱からのプロポーズを正式に受けたこと、彼にちゃんと話さないと。
そう思っているのに――。
いざ寛道から連絡があったら、どうしても尻込みしてしまう自分がいて嫌になる。
小町ちゃんに同席してもらったら、寛道と向き合えるかな。
そんな消極的なことを思っていたら、車が不意にスピードを落として。
そのまま路肩に寄せられて停車したことに、「オヤ?」と思う。
「頼綱?」
まだ家を出たばかりで、大学に着いていないというのは、いくら方向音痴な私にでも分かった。
忘れ物でもしたの?って問いかけようとしたら、パワーウインドウが開けられる音がして――。
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