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「やぁ花々里の幼馴染みくん。いま花々里を大学まで送って行くところなんだけど、ついでだしキミも乗っていくかね?」
ここ数日私を待っていてくれた場所で、今朝も寛道は待ちぼうけを決め込んでいた。
今日も一緒に行ってやるとか、待ってるからな?とか……そんな連絡、入ってなかったよね?
一瞬不安になったけれど、さっきまで見つめていたスマホにはそんなのきていなかったはず。
じゃあ、もしも私が連絡しなかったら……。
そうして頼綱が敢えてここを通る時、寛道に気付かないふりをしてスルーしていたら……。
彼はどうなっていたんだろう。
あんなに私と接触させることを嫌がっていたはずの寛道を、頼綱が愛車に乗せようとしていることに、私はかなり驚いた。
寛道に声を掛けるなり、頼綱は集中ドアロックを解除して、視線だけで「どうぞ」と車に乗り込むことを誘い掛けて。
「――これって何かの罠じゃないよな?」
寛道がそう思ったのも無理はない。
だって私も頼綱の言動にびっくりしているところだもの。
警戒しながらも、寛道が後部ドアを開けて乗り込んでくる。
「花々里、キミも後ろへ行きなさい」
ややして、頼綱が小さく吐息を落とすと、私にも信じ難いことを促してきた。
いつもの頼綱からは到底出ないだろう言葉に、私は瞳を見開いて固まってしまう。
頼綱は、ハンドルを握る手に一瞬だけ力を込めると、私に覆い被さるようにしてシートベルトを外してくれて。
そのまま私の耳に、「逃げてばかりじゃ、前には進めないよ?」とささやきかけた。
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