25.離さない

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*** 「着いたよ」  車内が気まずい空気に包まれたちょうどその時、幸いと言うべきか、大学(もくてきち)に着いたことを頼綱(よりつな)が知らせてくれて。  私は弾かれたように窓外に視線を向けた。  そこは、往来の多い大学の正門前で。  あちこちから、門前に乗りつけられた如何にも高級車です、という頼綱のレクサスに好奇の視線が集まっている。 「ひ、ろ、みち……」  それに気が付いてソワソワした私が、「降りよう?」って続けようとしたら、黙り込んでいた寛道(ひろみち)が、何も言わずにドアを開けて。  降りしな、頼綱に向かって「俺、1度フラれたぐらいじゃ、花々里(かがり)のこと、諦めたりしねぇから。アンタもそのつもりで」って吐き捨ててビックリする。  そんな寛道と頼綱を交互に見比べてオロオロしている私をミラー越しに確認した頼綱が、パワーウィンドウを少し開けて、「も花々里の手、死んでも離さないつもりだから。キミに付け入る隙はないと思うけどね」って聞いたことのないような低音で返すの。  寛道は頼綱の言葉に忌々しげな顔をして、ドアを少し乱暴にバタンと閉めた。  窓が開いていたからか、思いのほかドアが勢いよく閉まった気がして。  そのせいか、ドアが閉まる音に呼応したように、頭の奥の方が、一際(ひときわ)強くズキン!と痛んだ。  まさか頼綱と寛道が私を挟んでこんなことになるなんて思っていなかった私は、痛みに顔をしかめながら居た堪れない気持ちになる。
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