26.この味、覚えてる!

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 屋敷に帰り着くなり、八千代さんに私の部屋に(とこ)をのべるよう頼んだ頼綱(よりつな)に、「頭痛の原因はただの寝不足だと思うの。そんな大袈裟にしなくても大丈夫だよ?」って言ったら、「寝不足なら尚のこと布団に入るべきだと思うがね?」と睨まれる。  本当、ごもっともな言い分で。  何も言い返すことが出来ないままグッと言葉に詰まった私に、頼綱が「ときに鎮痛剤は飲んだのかい?」と畳み掛けてきた。  ふるふると首を横に振ったら、重ねて常備薬の有無を問われる。  時々生理痛がひどい時があるので、それ用の鎮痛剤を鞄の中に入れていたことを思い出しながらうなずいたら、キッチンに連れて行かれてすぐそこの椅子に座らされて。  そのまま待つように言われた私が、ポーチから取り出した薬を食卓に置いてぼんやりと座っていたら、グラスに水を注いで手渡してくれた。 「今日は薬を飲んで大人しく寝ているように」  言われて、水の残ったグラスを手にしたまま「頼綱は平気なの?」と問いかけたら「俺は慣れてるからね」との返事。  そこで、スッと取り上げられたグラスを見るとは無しに目で追いながら、「慣れてるって……頭痛に? それとも寝不足に?」って思いを巡らせる。  どちらにしても、慣れるようなものじゃないのに!って結論に達して眉根を寄せたら「痛むのか?」と頭を優しく撫でられた。  ――今のは痛くて顔をしかめたんじゃないよ?  そう返さなきゃいけないのに、手のひらから伝わってくる頼綱の温もりが心地よくて、ついつい手放したくないと思ってしまう。  結局、肯定も否定もしないままに「平気」とつぶやくように応えて、頭に載せられたままの頼綱の手にそっと触れてみる。
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