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「昨夜甘い匂いがしてただろう? これだよ」
カサッという乾いた音とともに、頼綱の方へ差し出した手のひらに、小さな包みが載せられて。
「これ……」
クッキングペーパーを小さく切ったもので、飴玉を包むみたいに紙縒られたそれは、中に茶色いものが包まれていた。
「八千代さんの手作りキャラメル。市販のものなんて比べ物にならないくらい絶品だよ。そう言えばキミも幼い頃――」
そこまで言って、ハッとしたように口をつぐんだ頼綱に、「そう言えば頼綱は私と会うの、アパート前で会ったあの日が初めてじゃなかったようなこと、言ってたっけ……」と思う。
「頼綱にも1個だけあげるね。食べていいよ?」
八千代さんは頼綱もこれ、好きだと言っていた。それを、本人の今の口ぶりからも存分に実感した私は、箱を手にしたままの頼綱を振り仰いで小首を傾げた。
1個だけと限定したものの、頼綱には私、不思議と自分が手に入れた美味しいものをお裾分けしてもいいかなって思えるの。
こんな風に思える相手なんて、今までお母さんぐらいしかいなかったのに。
それってつまりはお母さんの立ち位置に近いところ――私の懐の中?――に頼綱がいるということなんだろうな、とふと思って。
寛道に、自分は花々里から食べ物をもらったことがないのに、頼綱だけズルイみたいに言われた時には「それってそんなに重要なこと?」って思ったけれど、案外凄く大事なことかも知れない。
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