26.この味、覚えてる!

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「ひょっとして……。あのお兄さんは――頼綱(よりつな)……?」  私の記憶の中にいるお菓子のお兄さんは……貴方なの?  そこまで考えた私は、頼綱が今まで散々、私とは初見ではなかったと言っていたのを強く意識した。  それと同時、幼い頃、あのお菓子のお兄さんのことを、「つな」と呼んでいたことも思い出して。  そうだ。あの頃の頼綱(かれ)も、私に「よりつな」って呼ばせたがっていた。  でも、何度言わせても「よりちゅな」になってしまう私に、諦めたように「好きに呼んでいいよ。その代わりキミがもう少し大きくなったら、ちゃんと頼綱って呼んでもらうからね」って宣言したの。  それを思い出して、 「つな……?」  って疑問符まじりに小さくつぶやいたら、頼綱が私のすぐ横。まるで崩折(くずお)れるようにひざを折った。 「花々里(かがり)っ。子供の頃のこと、思い出したのか? っていうか……キミがずっと言ってた〝お兄さん〟は…………?」  ひとつひとつ確認するみたいに言われて、私は頼綱のどこか泣きそうにも見える表情に気圧(けお)さながらも何とかうなずいた。 「……よ、頼綱の嘘つきっ。私、小さい頃も、貴方のこと、ちゃんと頼綱って呼べてなかったじゃん」  照れ隠し、(とが)めるみたいにそう言ったら、ギュッと抱きしめられた。 「呼んでくれてたよ? よりちゅなって舌っ足らずな口調で一生懸命呼んでくれていた。……けど、すまない。――あの頃のはまだ幼くて……キミのたどたどしい呼び方が物凄く照れ臭かったんだ」  だから、言いにくいなら好きに呼んでいいって……。頼綱が私にそう告げてきたから、私は「ツナ缶みたいで美味しそう」って理由で「つな」を採用したんだよ?
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