26.この味、覚えてる!

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*** 「うちの両親が……丁度あの頃不仲のピークでね」  元々、仕事が忙しくて家にあまり帰って来なかった頼綱(よりつな)の父親と、家事があまり得意ではなくて、オマケに家に縛られたがらなかった頼綱の母親とは、すれ違い生活が続いていたらしい。  頼綱のお父様は、産婦人科の医院長をなさっていた関係で、お産が入れば家族そっちのけで職場へ急行するような人だったらしい。  頼綱自身、父親の顔が見たいと思ったら、父の働く『御神本(みきもと)レディースクリニック』に行く方が、家で待つよりも容易く会えたという。  父親には病院に行けば会えるけれど、母親は下手をすると本当に捕まらなくて。  携帯に掛けてみても留守電になることが多くて、声が聞きたい時にも、一向に捕まらない母親だったのだそうだ。 「まぁ、俺には幼い頃から母親のように接してくれた八千代さんが居てくれたからね。実際はそんなに不便も感じなかったし、寂しいと思ったこともなかったんだけれど――」  それでも何処かに母親が「いる」と思えるから耐えられた寂しさだった気がするんだ、と頼綱は言った。 「その母親がね、とうとう他所(よそ)の男と恋に落ちたとかで――。父と離婚することになってね」  それが丁度、頼綱が中3の頃。高校受験を意識しなければならない時期と重なったのだという。
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