26.この味、覚えてる!

20/21
前へ
/703ページ
次へ
 母親のことを薄情な(ひと)だと思ったのと同時に、じゃあ自分が幼い花々里(わたし)にしている興味本位で自分勝手な行為はどうなんだろう?と考えるようになってしまったらしい。  最初は、幼くして父親を亡くした幼な子への言いようのない同情から。  次は子犬のように自分に懐く小さな女の子への純粋な好奇心から。 「俺はね、きっと自分の中の満たされない思いを、キミに向けることである程度バランスを取っていたんだ」  頼綱(よりつな)の母親は、彼を(かえり)みず、外に愛情を求めてしまったけれど、自分の目の前にいるこの女の子は、ただ直向(ひたむ)きに自分(が持ってくるお菓子)を待っていてくれる。  それが、頼綱にとって救いであると同時に、重い(かせ)になっていったらしい。 「正直、俺の事情にキミを巻き込んではいけないって思ったんだ」  結局母親はそれっきり御神本(みきもと)家には帰って来なかったし、父親も頼綱(よりつな)のことを八千代さんに任せて一層家に寄り付かなくなった。 「父親がね、病院の近くにマンションを買ったのもちょうどその頃だよ」  一人息子の頼綱(よりつな)に、この広い家と八千代さんご夫妻を残して、頼綱のお父様も屋敷(ここ)を出て行ってしまったらしい。
/703ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2670人が本棚に入れています
本棚に追加