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「――そうだねぇ。キミのお母さんに頼まれたのももちろんだが、俺は結構前から花々里自身のことを、とても気に入っているのだよ」
そこまで言って私をじっと見つめると、
「俺は昔から気に入ったものは手元に置いて、とことん甘やかしたくなる性分なんだ。そこから考えると、キミのことはいささか長いこと自由にさせ過ぎていたくらいだ」
え?
どう言う意味?
説明されたほうがますます分からなくなってしまうとか……そんなのあり?
「えっと……もしかして……私のこと、ずっと以前からご存知?」
眉根を寄せて問いかけたら
「花々里がお父上を亡くされた時にね、俺は初めてキミを見かけたんだよ」
と、少し寂しそうな表情で私を見るの。
「その時から花々里のことが気になって仕方なくなってね」
お父さんを亡くした時?
それって私、物凄く小さい時だよ?
「あのっ、そのときミキ……、ヨリ、ツナは」
「12歳だ」
わーお。やっぱりものすっごい昔じゃないっ。
「あの、ごめんなさい。……私、覚えてないです……」
何となく、めちゃくちゃ長いこと片想いをさせてしまった気分になっちゃった。
この私が、ツヤツヤと美味しそうに誘惑してくる羊羹を、口に入れる手が止まってしまう程度には申し訳なくっ!
「確か花々里はまだ3つかそこらの幼な子だったから。――逆に覚えていたら怖いよね」
なのにサラリとそう返されて、私の申し訳ない気持ちを返せー!って思ってしまったの。
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