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そこでふと店員さんの気配を感じた私は慌てて頼綱の胸に手をついて腕を突っ張った。
「分かった、からっ」
ここお店なの、忘れないで?
オロオロと店員さんの方へ視線を流したら、頼綱がクスッと笑った。
「モヤモヤは消えたかな、僕の愛するお姫様?」
わざと恥ずかしい言い方をして私の羞恥心をあおって、頼綱の意地悪!
何か文句のひとつでも言ってやろうと口を開きかけた私をわざとかわすように、頼綱が店員さんに声をかけた。
「コレとコレ。彼女のを1つずつと、こっちのは私用のをお願いしたんだけど……納期はどのくらいかかりそうかな? なるべく早め希望なんだけど」
さっき選んだ、雲間から覗く望月デザインの婚約指輪と、水鏡の結婚指輪を指さして頼綱が言って。
私、と言う人称は初めて聞いたけど……仕事の時とか、公の場ではそっちを使ってるのかな。
私は店員さんがどんな表情でそれを受けるんだろうって気が気じゃなかったんだけど、さすがプロ。
目の前で馬鹿ップル丸出しでイチャイチャしていた私たちに呆れることなく、すぐににこやかに対応してくださった。
「採寸と……もちろん刻印もご希望ですよね? こちらですと、最短で3週間、最長で1ヶ月半ほどお時間を頂きたいのですが」
言われて頼綱が小さく吐息を落として、「まぁそれは仕方ないよね」とつぶやいた。
てっきりもっとワガママを言うんじゃないかと心配していた私は、案外すんなり頼綱が引き下がったことにホッとしたのと同時に、すごく意外な気持ちがして何だかモヤモヤしながら彼を見遣った。
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