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「ん? どうしたのかね、花々里」
小首を傾げるようにして問われた私は「何でもないっ」って慌ててうつむく。
と、そんな私の方へほんの少し身体をかがめた頼綱が、耳元に唇を寄せて小声で言うの。
「ひょっとして……もっとゴネて欲しかった?」
クスッと笑われて、私は真っ赤な顔で頼綱を睨みつけた。
悔しいけど〝図星〟だったんだもん。
だってね、さっき頼綱、言ったんだよ?
――不安だから頼綱のものだという印をつけさせて?みたいなこと。
それをそんなにアッサリ引き下がられたら、あれは嘘だったのかな?って悲しくもなるじゃない。
「頼綱のバカ! もう知らないっ」
何だか自分ひとりが勘違いして盛り上がっていたみたいで、泣きたいぐらいに虚しくなって。
思わずそっぽを向いて彼から離れようとしたら、即座に手をつかまれた。
「ねぇ花々里。僕がゴネないのにはそれなりの理由があるって考えないの?」
続いてそう問いかけられた私は、涙目のまま頼綱を見上げる。
視線を上向けたと同時にポロッと涙が落ちて、それに気付いた頼綱が「ごめんね、花々里。意地悪し過ぎたかな? ――許して?」って素直に謝ってくれて。
ふっと表情を和らげると、
「花々里が俺のことを好きだって態度で表してくれるのが嬉しくてつい、ね」
って心底嬉しそうに笑うの。
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