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「付けてみても……いい、かな?」
このセリフは頼綱へ向けたものであると同時に、店員さんへのお伺いの意味もあって。
ラッピングされていたから多分買い取られているんだろうなとは思うけれど、もしそうじゃなかったら困るなって思ったから一応。
「ご試着ですか? こちらの鏡をご利用になられて下さいね」
にっこり微笑まれて「どうぞ」と鏡を前に差し出された私は内心ホッとする。
やっぱりコレはもうお支払い済みの商品なんだ。でないと試着棒も使わずに気安く付けていいなんて言ってくれるはずない。
そう思った私は、頼綱の方を見上げて、
「頼綱、あの……」
付けて?って言おうとしたけれど、頼綱と目が合った途端、何だか気恥ずかしくて言えなくなってしまった。
結果中途半端にモゴモゴしたら、頼綱が「せっかくだし。僕に付けさせてもらえるかい?」って察してくれた。
私は小さくうなずいて前を向いて。
何だか照れて頼綱の方を見られないの、何でだろ。
頼綱の方を見ないままにあえてまっすぐ鏡を見つめた私だけど、見えなくても頼綱が私の髪の毛を避ける気配や、耳に触れる微かな吐息がすぐそばで感じられて、それはそれで照れ臭くてたまらなくなった。
いっそのこと、とギュッと目を閉じてやり過ごそうとしたけれど、それだと余計に感性が研ぎ澄まされる気がして慌てて目を開けて。
ふと視線を転じたと同時、目の前に置かれた鏡越しに頼綱と目が合ってしまってドキッとさせられる。
「花々里、そんな色っぽい顔しないで? ――キスしたくなる」
イヤリングを耳に付けてくれながら、頼綱が吐息まじりに私にしか聞こえないぐらいの小声、耳元でそうささやいてきて。
私は思わず耳を押さえて頼綱を振り返った。
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