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「僕はね、自分が思っている以上に家族を放置する事が怖くてたまらないんだよ」
だから産科は閉鎖する、婦人科のみの診療に切り替えていく、とつぶやく頼綱に、私は胸の奥がギュッと締め付けられた気がした。
頼綱が家に帰って来られないのや、一緒にいる時に急に呼び出されて居なくなってしまうのは確かに嫌だ。
でも、でも――。
「頼綱は……それで、いいの?」
聞いたら一瞬の間があって……「いいも何も…。それが最良じゃないかね?」ってつぶやくの。
いつもなら運転中だってチラッと私の顔色を窺う頼綱が、この話を始めてから一度もこちらを見ようとしないのがすごく気になる。
もちろん、じっとこちらを見られる状況にないことは分かっているけれど、わざとらしいくらいに前方に視線を向けていることが私にはどうしても納得がいかなくて。
私は頼綱にもらったばかりのイヤリングに触れながら、考えた。
実は頼綱にこの話をされる前から思っていたことを。
頼綱のお父様とお母様が疎遠になってしまった原因がお父様の「産婦人科医」というお仕事にあるのだとしたら、それはそのまま私と頼綱の未来にも関わってくる問題だと思っていたから。
鳥飼さんに連れられて頼綱が働いている姿を垣間見て、頼綱が付けた名札に、うちの大学の系列大学――夏ヶ丘医科大学附属病院――の文字を見たのを思い出して……そこと絡めて考えていた事。
「ねぇ、頼綱。私、大学辞める」
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