29.彼の不安と彼女の決断

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 私の肩にかかった、頼綱(よりつな)の腕に力がこもって少し痛い。 「頼綱が産科を辞めようとするの、止めたいの。――けど、今のままの私じゃダメだって思ったから」 「花々里(かがり)。悪いけど意味が……分からないよ?」  その痛みに眉をひそめながらもそう言ったら、頼綱がその様子に気付いて手の力を少し緩めてくれた。  あざになるほどではないと思うけれど、強い力で掴まれた肩がまだちょっぴりジンジンしている。  でも、そんなことはどうでもいいの。 「痛くしてすまない。――けどね花々里(かがり)。俺が産科から撤退するのと、キミが学校を辞めるのとは別の話だと思うんだがね?」  ややして私から身を引いて、眉間を揉むような仕草をしながら、頼綱が運転席にもたれて小さくそうつぶやいて。  私はそんな頼綱に、「別じゃないわ」って即座に返した。  頼綱はその声に驚いたように私を見て。  そこでふと思い出したように言うの。 「だが花々里(かがり)。今年度分の授業料はすでに支払ってあ――」 「それも! 何もかも承知の上で言ってるのよ!?」  頼綱の言葉を(さえぎ)るように言って、彼の顔をじっと見上げる。 「何故……」  そんなに(かたく)ななのか?って聞きたいのよね?
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